date: 8/29 17:36
チャーリー・ジェイド/Charlie Jade。シーズン1の第1話。パラレル・ワールド(並行世界)に翻弄される男を描いた異色SFダーク系。
巨大企業ヴェクスコア・テクノロジー社の施設で未曾有の実験が行われている。
アルファバース、ベータバース、ガンマバースと名付けられた3つの異なる「界」を結ぶトンネルを構築しようというのだ。球体がビューンと飛んでいってまた戻ってきたりして、研究者たちは満足げである。完成間近。
ここはアルファバース。酸性雨が降る未来都市。チャーリィ・ジェイドはケープシティの私立探偵で、恋人のジャスミンと暮している。彼はしょっちゅう幻視を見る癖があってピルが欠かせない。
ある夜、ケイティと名乗るズタボロの女の子が突然現れてヘルプミーと泣きついてきた。この夜を境にジェイドの人生がドロリと溶解する。彼女はケープタウンから来たのだといって、ここに来る前はクラブで知らない男に誘われて、変なドラッグを飲まされて、レイプされたのだという。
でも彼が住んでいるのはケープタウンでなくてケープシティだし、彼はケープタウンなんて聞いたこともないし、
彼女がいうナイトクラブなんて知らないし、ジャンキー娘の突然の訪問に途方にくれていると、女の子は走って逃げていっちゃう。翌日、刑事から呼び出されて死体を前に彼女が死んだことを聞かされ、そして彼女のIDがまったく不明なのだということを教わる。ジェイドは彼女の手がかりを調べたら、ヴェクスコア・テクノロジー社の創始者の息子に行き当たる。彼の名は01 ボクサー。ヘリを追って荒野の中のヴェクスコアの巨大施設に行き着く。
ベータバース。美しい自然の中で1組の男女がヒシと抱き合い、深刻な様子で風景を眺めている。彼らの名前はリーナとバーン。2人は金属製の箱をもって施設に向かう。ヴェクスコアの実験を食い止めようとしてるんだなとなんとなくわかる。一方ガンマバースでは、中年男性が大急ぎで施設に向かっている。詳細はわからないが実験をやめさせようとしてるように見える。彼の名はエリオット・クログ。
ALPHAVERSEのジェイドは遠くからヴェクスコアの巨大施設を見張っている。男と女が走っているのが遠くに見える。
と思ったら見えない。風景がグニャリと変容してパラレルワールドが目の前に拡がる。彼はこれがいつもの幻視だと思って大急ぎでピルを飲むんだけど、無慈悲な運命が彼を待っていた。大爆発の衝撃波に襲われ、異なる「界」の砂漠に放り出された。これは現実か。
※感想
カナダと南アフリカの合作というこの異色SFドラマは昨年カナダでオンエアされて以来、世界のSFファンの間で幻の同人誌のように語り継がれているらしい。というわけで私もパイロットを観てみた。ケープタウンで撮影されたという映像はアメリカ製SFとは明らかに異質で、映像には乾いた風が吹いている。汗に砂粒が混じってくるようなザラついた質感。暗い。未来都市の風景はブレードランナーやマトリックスを想起させるが、より陰湿で猥褻だ。
主人公の心情描写を極力排したドライな演出。スーパードライだ。SFファンはこの「突き放した感」にシビレるんじゃないか。
ジェイドはこの先「惑星ソラリス」に辿り着いた乗組員のように狂っていくのかもしれないし、ホースラヴァー・ファットのようにピンク色の光線を受けて秘密教典を書き始めるのかもしれないゾなんていう期待を持たせてくれるパイロットであった。
「マトリックス」は「アッチとコッチ」の2つの世界だったけれど、チャーリィ・ジェイドは3つのパラレルワールドを行き来するようだ。暗いモードがハマりそうでナカナカいいですよ。オトナのSF。たぶん。